スローシネマ ムーブメント

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 世界中の農業は近代化の果てに、今やいのちの世界から遠く隔たった場所に行きついてしまいました。農と食は人類の生存の基盤そのものです。それが、市場競争の中にまき込まれ、さらにグローバルな自由貿易の渦中に放り込まれてしまったのです。中小の農家はより大規模な農場に吸収され、地域の自給的な農は姿を消し、農山村の人口の多くが都会へ流れ出ました。今や田畑は単一の換金作物を大量生産する工場のよう。効率化の先端にあるはずの先進国の農業は「十のエネルギーを投入して一を得る」という不効率の極みにあります。
 それが私たちの時代です。かつていのちを育み、幸せな社会と幸せな人生の基盤を築くはずだった農的な営みが、人類の未来を脅かすものへと変貌してしまったのです。
 そんな時代にあって、自然農とは何を意味するのでしょう? それは、こんがらがった糸をほどくように、農耕という営みの大もとへと辿り直すことにちがいありません。耕さない、肥料も農薬も使わない、動力機械も使わない、虫や草や鳥を敵としない・・・。そんなふうに余計なものをひとつずつ引き算していけば、しまいには、農の原形が浮かび上がるはずです。人間と大地とのあるべき関係がそこに再び姿を現すでしょう。
 農業を超えて、川口由一さんの物語はすべての人に開かれています。それは、人が人として生きる意味を、人がひとつのいのちとして生きる意味を、そして人が個々の自分を生きるということの意味を語ってくれます。
 世界はいよいよ曲がり角です。今こそ、川口さんの言葉に耳を傾け、その生き方に溢れている美しさや愉しさを見つめてみましょう。そこには、大転換期を幸せに生きるための智恵が詰まっています。