スローシネマ ムーブメント

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scm-toha

 ぼくはファンさんのことを「バウ」という愛称で呼ぶ。それは古い朝鮮半島の言葉で「石ころ」を意味する。彼が獄中で絶望の果てにカトリックに入信し、洗礼を受けた時、西洋風の名前をもつことに違和感を覚え、「石」を意味する聖徒ペテロの名にちなんでつけたものだそうだ。
 同じ石でも、それは宝石でもなければ、巨岩でも、名石でもない。路傍の、ちっぽけな、名もない石ころである。
 バウさんの眼は厳粛で、しかし、同時に優しい。その表情には深い悲しみが、そして同時に、底抜けの愉快な笑いが潜んでいる。バウさんとは、いつも、ふたつの一見相反するものの融合である。
 彼の住む国はいまも分断され、反目し合っている。いや、世界中が、相反するもの同士がぶつかり合い、争う場所ではないか。そのただ中で、しかし彼は「いのちの本質は平和である」と高らかに宣言する。そして、その祈りのような言葉を、自ら、体現する。
 人はともすると、よりよい場所を求め、今いる場所を軽蔑する。しかし、本当の問題は、今いる場所でどう生きるか、なのだ、とバウさんなら言うだろう。実際、どこにいても彼の周りにはいつも凛とした、澄んだ空気が漂っている。
 この透明感はどこからやってくるのか? そのヒントは、彼の合言葉、「トロッケ・サルジャー(汚く生きよう)」にある。
 獄中での13年を通じて、バウさんの暮らしは、ぼくたちの社会が嫌悪し、蔑視するものたちとともにあった。中でも、生まれ変わった彼の新しい世界観の核となったのは、雑草と雑菌だ。それらが息づく低い場所へと降り立つことによって、彼は蘇った。そして、それらを忌避することによってついには崩壊の危機に喘ぐことになった現代文明に対して、彼は最も透徹した目をもつ批判者となり、さらにはそれに変わる新しい社会の予言者となったのである。
 この映画を通して、あなたの人生に、ぼくの大好きなバウさんが入ってくることを想像して、ぼくはワクワクしている。

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加藤登紀子(歌手)
焚き火のそばで語り合ったようで、静かに生きる勇気が湧いてくる、大切なたくさんの言葉が残りました。生きることが、気持ちの良い風のようであればいいな、と今、感じています。

鈴木重子(ヴォーカリスト)
ファンさんにお会いした瞬間、その無邪気な、子どものような笑顔と、深い静かな優しさに、こころを打たれました。ファンさんの語る言葉の後ろには、想像を絶する経験から培われた『生きた平和』が息づいていて、その佇まいに触れていると、イデオロギーや思考を超えたどこかでもっと確かであたたかい、平和の実在に触れることができるのです。
「闇に憤るより、光を灯そう」
怒りを超えて、いのちを育み、共に生きる道を選んだファンさん。この星の未来を憂え、希望を探すひと、今を生きる意味を見つけたいひとにぜひ、見て、感じてほしい、貴重な作品です。

石坂浩一(立教大学教員)
日本と韓国の間には、歴史認識や平和の問題など、いろいろな葛藤がある。しかし、人間にとって本当は何が大切かということをつらつら思った時に、日本人であろうと韓国人であろうと、共有できる価値がきっとあるということを、この映像を通じてファンさんは教えてくれている。

吉岡淳(カフェスロー オーナー)
ファン・デグォンさんが拙宅に泊まった時、草ぼうぼうの庭を見て、「これぞ野草庭園」と言った。その瞬間、無関心でしかなかった庭の草たちが目のなかに飛び込んできた。同時に草を 差別化している自分の愚かさに気づかされた。ファンさんの土に根ざした生きざまは、全てのいのちが生かされてこそ人間は生かされるんだということを改めて教えてくれる。

正木高志(アンナプルナ農園)
「闇のなかではろうそくの火が救いになる」。刑務所での拷問、野草の生命に見つけた希望。これからやってくる日本の厳しい時代へのメッセージ。

高坂勝(たまにはTSUKIでも眺めましょ オーナー)
俗と欲から降りれば幸せが拾えるとしたら、あなたは降りれる? 自分の立つべき場所に降りたい人よ、ファン氏の語りがそっと背中を押してくれるだろう!

関根健次(ユナイテッドピープル 代表)
現代文明以前の人間の暮らしは自然と共生していた。実際、人類史のほとんどをそう暮らしてきた。獄中、自らの生命が失われようとする状況で、ファン・テグォン氏は、野草を通じて自然とのつながりを見い出す。土に根ざした暮らしをする氏の姿に本当の強さと愛を感じた。いつからか、人間は土から離れすぎ、自然とのつながりが断絶されてしまい、自然を資本として売り買いし、ボロボロにしてしまった。自然と共に生き、自然と同じく朽ちる命を大切に遣い、輝かせる姿に感動! 今こそ自然とのつながりを取り戻し、サステイナブルな世界へ!

田中優子(法政大学 学長)
自分の居場所に降りる、火や草や木に降りる、生命の本質である平和に降りる、微生物に降りる、人間中心の世界から降りる─ファン・デグォンの多様で透明な言葉が、私たちの降りるべき場所を示す。今こそ降りるために。

中村隆市(ウインドファーム オーナー)
1985年、軍事独裁政権から身に覚えのないスパイ容疑で逮捕され、無期懲役の宣告を受けたファンさんは、凄まじい拷問と先が見えない絶望の中で5年を過ごし、心身ともに疲弊して、生きる意味を見失っていた。そんなとき、彼を救ったのが、刑務所の片隅に咲く野草だった。過酷な経験をしたファンさんと実際に会って、その穏やかさと優しさの中に本当の「つよさ」と「平和な生き様の豊かさ」を感じた。この映画を見て、多くの人にファンさんと出会ってほしい。