スローシネマ ムーブメント

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かんじんなことは、目に見えないんだよ (『星の王子さま』より)

 ぼくがブータンに最初に行ったのは2004年、以来、20回近く通ったことになる。一体何がそんなに面白いのか、と友人たちも呆れ気味だ。面積は九州程度で、そのほとんどは急峻な山と森林。人口はたった70万人ほど、東京の練馬区くらいだ。考えてみれば、確かに飽きない自分がちょっと不思議にもなる。
 何がぼくをブータンに惹きつけてきたのだろう。それを、ブータンに通いながら、ずっと考えてきたような気がする。もちろん、その答えは単純ではありえない。知れば知るほど、ブータンは奥深く、重層的で、多様性に満ち、雑然として、不可解だ。
 ブータンの話になると、よく言われる。「ブータンって、幸せの国なんでしょ?」 ぼくがブータンによく行くのは、そのせいだ、と言わんばかりに。こういう単純化にぼくは抵抗を覚える。というより、ぼくが身をもって経験しているブータン自体が、こういう単純化に抵抗するのだ。
 この小論では、今や世界規模に広がった「幸せの国ブータン」というイメージについて考え直す(アンラーンする)ために、その元になったと思われる“GNH(国民総幸福)”という言葉に注目する。それは、ブータンという社会についてよりよく知ってもらうためというより、我々現代人が、それぞれの社会について、人生について、考え直すために役立つと思うから。
 結論を先に言ってしまえば、GNHとは答えではない。それは、各々の人の中に「幸せとは?」「豊かさとは?」といった基本的な問いを呼び覚ます“種火”のようなものなのだ。……

DVDブック『辻信一とともに歩く タシデレ(幸あれ)!〜祈りはブータンの空に』より引用

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サティシュ・クマール
私は大いなる歓びとともに『タシデレ!』を見ました。それは、ブータンという社会、なかでもGNHという言葉が表す、精神性、文化、世界観を見事にとらえています。多岐にわたる人々へのインタビューはどれも奥深く、映像も最上級です。このDVD作品はシューマッハ―・カレッジの「ライト・ライヴリフッド(よき生き方)」課程への最良の入門となるでしょう。本当に「タシデレ!」は素晴らしい。それは新しい世界意識の形成に向けての重要な貢献です。私はそれが嬉しいのです。

松場登美(石見銀山生活文化研究所 所長)
私がブータンを訪れたのは今から約10年前のことです。GNH(国民総幸福量)について「ブータンは経済を放棄したのではない、優先順位を変えたのだ」という言葉が印象的でした。いわゆる先進国と言われる国々が経済を最優先にしているのに。映画の中で語られていた「田舎ほど幸福度が高い」は、人口410人の集落で暮らしている私にとって一番心に響きました。また、「何を変え何を変えないか」の選択は、私達も常に向き合ってきた課題です。そして、発展を否定するのではなく、どういう発展の仕方が理想的なのかが問われていると思います。すべて映画の中の請売りのようになってしまいますが、足るを知り感謝することで幸せを感じることができるということに尽きるのではないかと思います。