スローシネマ ムーブメント

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 スローシネマ「アジアの叡智」シリーズは、危機の淵にある現代世界を、新しい時代へと導いてくれるアジアの賢人たちへのインタビューを軸に、その智慧のエッセンスを映像でとらえ、表現しようとする作品群です。
 欧米先進国に主導された近代化と、それに続くグローバル化は、世界中の人々を終わりのない経済成長へと駆り立て、争いや格差を、そして資源枯渇や環境破壊を引き起こしてきました。山積する深刻な問題を前に、いまだ主流社会は既成の科学技術にその解決を委ね、経済至上主義や物質主義というマインドセット(思考の枠組み)にとり憑かれたままです。

「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセットのままで、その問題を解決することはできない」と言ったのはアインシュタインです。
 人類生存そのものの危機という、「問題」と呼ぶにはあまりにも巨大な問題を前にして、さて、それを引き起こしたマインドセットとは何だろう、と問う。そして、その枠の中からどうしたら、外へと抜け出すことができるのだろう、と。
 本DVDプロジェクトは、これらの問いに対する私たちなりの答え探しの旅です。旅のフィールドはアジア。今も息づくアジアの知的伝統の中から、現代世界を—そして他ならぬ私たち自身を—支配するマインドセットを曇りない目で捉え、そしてそれを超え出るための手がかりを得ることを目指そう。そんな思いから、スローシネマ・プロジェクトは始まりました。

 スローシネマの第一作目『今、ここにある未来』のなかで、シリーズ全体のアドバイザーでもあるサティシュ・クマールはこう言っています。
 「危機の時代だと言われます。生態系の危機、地球温暖化、エネルギー危機、これら全ての〈危機〉は、しかし好機でもあります。こういった問題について話し合うよい機会であり、現在のシステムをデザインし直すための絶好の機会ともなりえます。本当の〈豊かさ〉とは何かを定義し直すのです」
 この言葉通り、スローシネマはこの危機的な状況を、人々が集い、つながり、助け合い、分かち合う好機へと転じていくための、ひとつの手段となることを志しています。
 スローシネマに登場する賢者たちの言葉に、ぜひ、じっくりと耳を傾け、その思いをあなたの全身で感じてみてください。古代の昔から地下水脈のようにアジア人のうちに—そしてたぶんあなた自身のうちに—流れてきたエコロジー思想や精神哲学を再発見してください。「豊かさ」の呪縛から自分を解き放して、改めて、本当の豊かさとはなにか、幸せとはなにか、と問い直してみましょう。そして、自分と社会の来るべき大転換への一歩を歩み出してください。スローシネマがそのきっかけとなれれば、幸いです。

 スローシネマを、あなたの地域で、コミュニティで、学び合いやつながり合いの場で、どうぞご活用ください。それが私たち製作チームの願いです。

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辻 信一 − Keibo Oiwa
文化人類学者、明治学院大学国際学部教員。自己と社会のホリスティックな変革を目指す活動家。「ナマケモノ倶楽部」世話人、「ゆっくり小学校」校長。本作を含む“アジアの叡智”DVDシリーズでは制作と聞き手を務める。